法人向けクラウドストレージの選定とは、単純な機能比較ではなく、自社の利用目的やセキュリティ要件を先に整理したうえで、Box・OneDrive・Dropboxなどの候補を絞り込む作業です。
「とりあえず有名なサービスの比較表を見て決める」という進め方は、導入後に既存システムとの相性やセキュリティ要件の見落としに気づき、再選定につながることがあります。
【結論】 比較表で機能を並べる前に、利用目的・既存IT環境・セキュリティ要件・コスト構造・運用体制という5つの観点を自社内で整理することが重要です。
この整理を先に行うことで候補を絞り込みやすくなり、導入後のミスマッチを防げます。
Box・OneDrive・Dropboxの詳細な機能スペック比較は、5つの観点を整理したうえで参照すると効果的です
本記事では、比較表を見る前に整理しておきたい5つの観点と、整理後の比較の進め方を解説します。
1. 法人向けクラウドストレージの比較前に整理したい5つの観点とは?
多くの企業がクラウドストレージ選定でまず行うのが、容量やアップロード上限などスペックの比較です。
しかし、スペック比較だけで選ぶと、自社の利用目的や既存環境との相性を見落としたまま契約してしまうことがあります。
比較検討を始める前に、次の5つの観点を自社内で整理しておくことで、候補の絞り込みがスムーズになり、導入後のミスマッチを防ぎやすくなります。
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観点 |
確認すべきこと |
整理を怠った場合のリスク |
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利用目的とデータの性質 |
社内共有か社外共同編集か、大容量ファイルの頻度 |
共有権限や容量上限が業務に合わず使いにくくなる |
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既存IT環境との親和性 |
Microsoft 365・Google Workspaceとの連携、SSOとの統合可否 |
複数のID・ツールを併用する運用負担が増える |
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セキュリティ・権限管理の要件 |
アクセス権限の粒度、外部共有制御、監査ログ |
情報漏洩リスクや監査対応の不備につながる |
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コスト構造 |
容量の付与方法、追加費用、既存契約との重複コスト |
想定外のコスト超過が後から発覚する |
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運用・サポート体制 |
移行支援、社内教育、サポート対応の有無 |
導入後のトラブル対応が遅れ、現場の負担が増える |
以下、それぞれの観点で具体的に何を確認すべきかを解説します。
社内のファイル共有が中心か、取引先など社外との共同編集が多いか、動画・設計データなど大容量ファイルを扱う頻度が高いかによって、適したサービスは変わります。
社外との共同編集が多い場合は、共有リンクの権限設定や有効期限をどこまで細かく設定できるかが基準になります。
大容量ファイルを扱う場合は、1ファイルあたりのアップロード上限に加え、実際のネットワーク環境での転送性能や同期の安定性も選定基準になります。
トライアルの際に実データに近いファイルで確認すると、導入後の体感差を減らせます。
ファイルサイズだけでなく、ファイル数、フォルダ階層、保存期間、バージョン履歴の必要性、個人情報や機密情報の有無も整理しておくと、移行や運用設計の見積もり精度が上がります。
部署によって利用目的が異なる企業では、代表的な部署にヒアリングし、全社共通で必要な要件と、特定部署だけに必要な追加要件を分けておくと、機能不足と過剰投資の両方を防ぎやすくなります。
すでにMicrosoft 365を全社導入している企業であれば、OneDrive・SharePoint・Teamsを一体で利用しやすい点は大きな利点です。
なお、Microsoft 365では、個人を起点として保存・共有するファイルはOneDrive、部署やプロジェクトの共有ファイルはSharePointやTeamsのチームサイトを中心に管理する構成が一般的です。
(出典:Microsoft Learn「Microsoft 365 でファイルストレージと共有を設定する」)
部署やプロジェクト単位の共有まで含めて比較する場合は、OneDrive単体ではなく、SharePointやTeamsを含むMicrosoft 365全体で評価した方が実態に合います。
一方、認証基盤(SSO)や社内システムとの連携を重視する場合は、既存のID管理システムとどこまで統合できるかを事前に確認する必要があります。
既存環境との親和性を考慮せずに選定すると、複数のIDやツールを使い分ける運用負担が生じることがあります。
特に、すでに複数のクラウドサービスを併用している企業では、新たに導入するサービスがどの認証基盤に統合できるかを最初に確認しておくと、後工程の設計がスムーズになります。
あわせて、Google Workspace、Slack、電子契約、ワークフロー、MDM・EDR、既存のファイルサーバーやNASなど、日常的に利用しているシステムとの連携方法も確認します。
BoxとOneDrive・SharePointの機能面の違いについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
取り扱うデータの機密性に応じて、多要素認証やSSOに対応しているか、アクセス権限をどこまで細かく設定できるか、外部共有をどう制御するか、操作ログをどこまで取得・保存・監査できるかを洗い出します。
官公庁や医療、金融など高いセキュリティ水準が求められる業種では、この観点が選定の決め手になることがあります。
また、テレワークや私物端末の利用がある場合は、端末やネットワークの状態に応じてアクセス権限を制御できるかどうかも、あわせて確認しておきたいポイントです。
代表的な確認項目は次のとおりです。
多要素認証への対応
SSO・ID管理基盤との連携
外部共有リンクの有効期限・パスワード設定
部署・グループ単位の権限設定
退職者・異動者の権限変更のしやすさ
操作ログの保存期間
端末・場所・ネットワークに応じたアクセス制御
誤削除・上書き時の復元
データ保持・削除ポリシー
これらの管理・セキュリティ機能は、同じサービスでも契約プランや追加オプションによって利用できる範囲が異なるため、サービス名だけでなく導入予定プランの仕様を確認する必要があります。
ISMAP等クラウドサービスリストへの掲載確認は、すべての民間企業に必須というわけではありません。
政府機関等がクラウドサービスを調達する場合は、原則としてISMAPクラウドサービスリストまたはISMAP-LIUクラウドサービスリストに掲載されたサービスから選定します。
(出典:国家サイバー統括室「政府機関対策関連-ISMAP」)
また、調達仕様書や取引先要件で指定されている場合も、利用予定のサービスがリストに掲載されているか確認します。
確認する際は、事業者名だけでなく、利用予定のサービス、提供機能や利用条件が登録範囲に含まれているか、登録の有効期限が切れていないかまで確認します。
自治体については、各自治体の調達基準や仕様書を個別に確認する必要があります。
ISMAP以外にも、自社や取引先が求める第三者認証、監査報告書、個人情報の取り扱い条件、データの保存国・地域、事業者や再委託先によるデータへのアクセス条件を確認します。
認証を取得していることだけで判断せず、利用予定のサービスや対象範囲が認証・監査の範囲に含まれているかを確認することが重要です。
クラウドストレージに保存しているだけで、あらゆるデータ消失に備えられるとは限りません。
誤削除、上書き、ランサムウェア、アカウントの不正操作などを想定し、削除済みファイルの保持期間、バージョン履歴、復元方法、バックアップ機能の有無を確認します。
(出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版 付録7 中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」)
また、サービス停止に備えるため、業務上ファイルへ常時アクセスする必要がある場合は、サービスの稼働率、障害発生時の通知方法、障害時の回復目標時間、SLAの内容も確認します。
重要なデータについては、クラウドストレージ側の復元機能だけに依存せず、別環境へのバックアップが必要かどうかも検討しておくとよいでしょう。
法人向けクラウドストレージは、ユーザー単位の課金を基本とするサービスが多い一方、容量の付与方法はサービスやプランによって異なります。
ユーザーごとに容量が付与される方式、チーム全体で容量を共有する方式、容量無制限のプランなどがあるため、表面上の月額料金だけでなく、利用人数と必要容量を組み合わせて総コストを比較することが重要です。
容量追加時の費用、最低契約ユーザー数、既存のMicrosoft 365やGoogle Workspaceとの重複コスト、セキュリティ機能や管理機能を追加した場合の費用まで含めて比較します。
例えばBoxのBusiness以上のプランはストレージ容量上限なしですが、1ファイルあたりのアップロード上限などの契約条件はプランによって異なります。
(出典:Box「Boxサービスの価格-法人向け」)
導入設計、データ移行、権限設定、社内教育、バックアップ、サポートプランなどの初期費用・周辺費用も含めて比較します。
利用人数が今後増減する可能性がある場合は、ユーザー数の増減に対して料金がどう変動するかも、契約前に確認しておくと安心です。
導入時のデータ移行支援、社内向けの操作研修、トラブル時のサポート対応は、実際の運用負荷に直結します。
情報システム部門の人員が限られている企業ほど、ベンダーまたは導入支援パートナーのサポート体制を重視した方がよいでしょう。
問い合わせ窓口の所在地だけでなく、日本語対応の可否、受付時間、問い合わせ手段、回答時間の目安、障害時のエスカレーション方法を確認します。
クラウドストレージは、導入時だけでなく、将来サービスを変更・解約するときの移行性も確認して選ぶ必要があります。
IPAは、利用終了時に全データを取得できるか、データ形式に互換性があるか、移行先が一括取り込みに対応しているか、返却後の残留データが消去されるかを確認項目として挙げています。
(出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版 付録7 中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」)
これに加え、クラウドストレージでは、フォルダ構成、アクセス権限、バージョン履歴、メタデータ、共有設定などをどこまで引き継げるかも確認します。
あわせて、データの一括取得や移行支援に追加費用がかかるか、解約後いつまでデータを取得できるかも、契約条件や利用規約で確認しておきます。
5つの観点を整理したら、次のステップで候補を絞り込みます。
ステップ1: 5つの観点をもとに、自社にとって譲れない条件を3つ程度に絞る
ステップ2: 絞った条件を満たす候補を2~3サービスに絞り込む
ステップ3: 候補サービスの容量・アップロード制限・共有機能・バージョン管理・セキュリティなど、詳細なスペックを比較する
ステップ4: 一部の部署でトライアル導入し、実際の運用感を確認する
以下は候補を絞り込むための一般的な傾向です。
いずれの要件も複数のサービスで実現できる場合があり、特定の機能が一つのサービスだけに限定されることを示すものではありません。
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優先したい要件 |
候補になりやすいサービス |
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Microsoft 365・Teams・Officeファイルとの一体運用を重視する |
OneDrive・SharePoint |
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組織横断のコンテンツ管理や社外コラボレーションの統制を重視する |
Box |
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ファイル同期・共有・共同作業を中心に利用する |
Dropbox |
利用できる管理・セキュリティ機能は契約プランによって異なるため、最終的には自社要件と導入予定プランを照合する必要があります。
要件を社内で整理する際は、次のような簡易シートを使うと、部署ごとの意見を集約しやすくなります。
※以下はフォーマットの記入例です。
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確認項目 |
必須・希望 |
対象部署 |
現在の課題 |
トライアル結果 |
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社外ユーザーとの共同編集 |
必須 |
営業部 |
メール添付が多い |
未実施 |
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共有リンクの有効期限 |
必須 |
全社 |
無期限リンクが残る |
未実施 |
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1ファイル50GB以上の転送 |
希望 |
制作部 |
転送に時間がかかる |
未実施 |
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Microsoft 365との連携 |
必須 |
全社 |
ID管理を統合したい |
未実施 |
詳細な機能やプランを比較する際は、以下の記事もあわせてご覧ください。
保存容量の公称上限だけで見ると、BoxのBusiness以上のプランが「ストレージ容量無制限」で最も大きくなります。
各サービスの主な容量は次のとおりです。
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サービス・プラン |
公称容量 |
備考 |
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Box Business以上 |
ストレージ容量無制限 |
1ファイルあたりのアップロード上限はプランにより異なる |
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OneDrive(Microsoft 365 Business Basicなど) |
ユーザー1人あたり1TB |
一般法人向けプランの場合 |
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Dropbox Standardクラシック(日本) |
チーム全体で5TBを共有 |
最低3ユーザー。Dropbox公式ヘルプでは、日本はStandardの提供対象外との記載(クラシックのみの提供) |
(出典:Box「Boxサービスの価格-法人向け」、Microsoft「Microsoft 365 Business Basic」、Dropbox「Dropbox Standardについて」)
※Dropboxの日本語料金ページにはStandardが表示されていますが、公式ヘルプでは日本はStandardの提供対象外で、Standardクラシックが適用されると案内されています。本記事では地域条件を明記した公式ヘルプに基づいて記載しています。
ただし、容量無制限のプランにも、1ファイルあたりのアップロード上限などの条件があります。
また、OneDriveはユーザーごと、Dropboxはチーム全体というように容量の付与単位が異なるため、単純な合計容量だけでは比較できません。
※2026年7月時点の情報です。最新の容量・契約条件は各サービスの公式情報をご確認ください。
管理目的のない併用は、アカウント、権限、監査ログ、退職者対応、問い合わせ窓口が分散するため、可能であれば主要なサービスを1つに集約した方が運用負担を抑えられます。
一方、取引先指定の共有環境、Microsoft 365の個人領域、クリエイティブ部門の大容量データなど、用途を明確に分けた併用が適している場合もあります。
併用する場合は、アクセス権限の管理方針、退職者・異動者への対応、監査ログを確認する担当者と頻度を統一しておくと、運用の混乱を減らせます。
クラウドストレージの移行費用・期間に、一律の目安はありません。
データ容量だけでなく、ファイル数、フォルダ構成、アクセス権限、外部共有、バージョン履歴、既存システムとの連携範囲によって大きく変わります。
部署単位の移行でも、複雑な権限や大量の小容量ファイルがある場合は時間がかかるため、人数だけで期間を判断することはできません。
事前調査や試験移行を行ったうえで、導入支援事業者から見積もりを取得することをおすすめします。
移行期間中に旧サービスと新サービスを並行稼働させる場合は、どちらを正本とするか、旧環境への書き込みをいつ停止するか、差分データをどのように移行するかも事前に決めておきます。
Microsoft 365を導入済みでも、必ずOneDrive・SharePointを選ぶべきとは限りません。
Microsoft 365を全社導入している企業では、OneDrive・SharePoint・Teamsとの一体運用やライセンスの重複回避が利点になります。
ただし、社外との共有方法、権限管理、監査、既存システムとの連携などの要件によっては、BoxやDropboxを追加・選択する方が適している場合もあります。
Microsoft 365を利用していることだけで決めず、5つの観点から判断します。
クラウドストレージは、独立したバックアップの完全な代わりになるとは限りません。
バージョン履歴やごみ箱、削除ファイルの復元機能は誤操作への備えとして役立ちますが、保持期間や復元対象には制限があります。
重要データについては、想定する事故と必要な復旧時点を整理し、別途バックアップが必要か判断します。
法人向けクラウドストレージの選定では、Box・OneDrive・Dropboxなどのスペックを比較する前に、利用目的、既存IT環境との親和性、セキュリティ・権限管理の要件、コスト構造、運用・サポート体制という5つの観点を自社内で整理することが重要です。
この整理を先に行うことで候補の絞り込みがスムーズになり、導入後のミスマッチを防ぎやすくなります。
自社だけでの判断が難しい場合は、専門家が提供する導入支援サービスへの相談も選択肢の一つです。
5つの観点を整理した結果、Boxが候補となる場合、当社ではBoxの導入設計・移行・社内展開を支援するサービスと、導入後のセキュリティを強化する製品を提供しています。
Box導入支援サービス「Boxwitch」では、Boxの企画・設計、ドキュメント作成、社内向けトレーニング、構築・展開など支援しています。
導入後のエンドポイントセキュリティ強化には、PC上の同期フォルダ内データを自動暗号化し、同期フォルダ外へのコピーや外部へのアップロードを制限する「CFKeeper」が有効です。
クラウド上のデータそのものではなく、PC上に同期されたデータを保護する製品です。
また、働く環境や端末の状態に応じてBoxのアクセス権限を自動的に切り替えたい場合は、「CL-UMP(クランプ)」が便利です。
弊社、サイエンスパーク株式会社は1994年の創業より、ソフトウェア・ハードウェアのセキュリティ対策をおよそ30年に渡り続けてまいりました。
各種企業様におけるセキュリティリスクの診断から対策導入・運用までのお手伝いが可能ですので、ご相談だけでもお気軽にお問い合わせくださいませ。
参考情報・出典
・Microsoft Learn「Microsoft 365 でファイルストレージと共有を設定する」
・Microsoft「Microsoft 365 Business Basic」
・Dropbox「Dropbox Standardについて」
・IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版 付録7 中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」